医療DXのために重点的に投資すべきAI分野(v0.5)
提案要旨
東京都における医療DX戦略の一環として、生成AI技術を活用した2つの施策を提案する。いずれも現行業務の効率化や都民の利便性向上に寄与するものであり、特に都立病院および都民を対象とするスケーラブルな導入が可能である。
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施策1:医用画像診断AIの都立病院全体への導入
放射線診断医不足に対応し、AIによる画像診断支援を活用することで診断精度向上・医師負担軽減・早期治療を促進する。 -
施策2:都民向け24時間AI健康相談チャットボットの導入
既存の電話相談窓口(#7119等)の負荷を軽減し、夜間・休日を含めた適切な医療行動を都民が取れるよう支援する。
いずれの施策も、年間数万時間規模の時間削減と、数億円単位の医療資源効率化・経済波及効果が期待される。
上記の2つの施策が選定された理由
以下の「東京都AI戦略いどばた会議」議事録を参照。 東京都での生成AI技術の活用策として、可能そうな施策を10個挙げた上で、議論をしてもらった。その上で、肯定的な意見が多く集まり、実現可能性が高いとのコンセンサスが取れた2つの施策をピックアップした。
https://large-scale-conversation-sandbox.discourse.group/t/topic/146/22
施策1:医用画像診断AIの都立病院全体への導入
何をするかの概要
都立病院に対し、X線・CT・MRIなどの医用画像をAIが解析・診断補助するシステムを導入。誤診リスクを低減し、放射線科医の業務を効率化。
具体内容
- 胸部X線、CT、MRI等の検査画像をAIが自動解析
- 異常検出アラート、診断レポートのドラフト作成
- 医師による最終確認を前提とした補助利用(医師法遵守)
- 都立病院共通のクラウドプラットフォームで一元管理
その提案が良い理由
- 諸外国に比べても負担の大きい日本の放射線科医の業務を効率化
- 海外平均に比べて日本の放射線科医の読影負担は4倍以上
- 参照:原子力産業新聞
- 放射線科医の数は海外平均の3分の1で、26カ国中最下位
- 海外平均に比べて日本の放射線科医の読影負担は4倍以上
- 放射線科医の読影時間を 約40%削減 可能との報告あり
- 年間100万件規模の読影において 数万時間の削減効果
- 誤診・見落としリスクの低減による患者アウトカムの改善
- 医療費削減(再検査、誤診による治療等)にも寄与
インパクト
- 削減時間:年間50万件 × 6分短縮 = 約50,000時間
- 読影時間が42%短縮されたとの報告
- 参照:海外研究
- 都立病院での放射線診療数は50万件程度と試算
- 1件あたりに必要な読影時間は14.6分
- 参照:日本放射線科専門医会
- 読影時間が42%短縮されたとの報告
- 読影精度向上:特定疾患で感度+10%の向上事例あり
- 参照:海外研究
- 医療費節減:誤診・見逃し回避により医療費も節減できる可能性
- 特に、早期ガン治療は治療費が大幅に安価になるため、効果が大きい
- 参照:米国では投資額の4.5倍のリターン
コスト
- 初期費用:30〜40億円(都立14病院で導入、クラウド/AI構築、データ整備含む)
- 年間運用費:3〜4億円(ライセンス更新、保守、AI更新、教育費等)
想定されるリスクとその対処方法
リスク | 対処方法 |
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誤検出・見落とし | AIは補助に留め、医師の最終判断を徹底 |
過信による判断ミス | 教育徹底、説明可能なAI(XAI)を導入 |
データ品質・プライバシー | 匿名化・セキュリティ対策、クラウドは国内拠点利用 厳格なアクセス管理と堅牢なセキュリティ対策による高水準なプライバシー保護。 |
医療従事者の抵抗感 | トライアル実施、段階導入、研修とフィードバック反映 |
システム障害 | 冗長構成、オフライン対応プロトコル整備 |
事例(国内・海外)
- 国内:慶應義塾大学病院、地方中規模病院などがAI導入し再検査率10%削減
- 海外:NHS(英国)や米国大病院にてAI導入、ROIは投資の4.5倍との事例も
施策2:都民向け24時間AI健康相談チャットボットの導入
何をするかの概要
都民がスマホやPCで気軽に健康相談できるチャットボットを提供し、症状からの緊急度判定や対応アドバイスを自動化。既存電話相談(#7119等)を補完。
具体内容
- 都の公式LINE/サイトにチャットボット設置
- 既存の#7119、#8000の効果を測定・分析した上で導入を検討
- 症状を入力すると、緊急度と対応(自宅療養、受診、119)を案内
- 医療知識ベース+生成AI(RAG構成)で回答生成
- 必要時は人間の相談員へのエスカレーションも可能
- オンライン診療や処方薬受け取りの仕組みとの連携を検討し、利用者の利便性向上と救急利用抑制の実効性を高める
その提案が良い理由
- 電話窓口の逼迫を緩和、チャットなら 同時多数対応が可能
- 軽症者を適切に自宅対応に誘導 → 救急車/外来の不要利用抑制
- 特に若年層に対する心理的ハードルが低い
インパクト
- 利用件数:年10万件利用
- 埼玉の同様事例との人口比より算出(東京都は埼玉県の2倍の人口)
- 参照:埼玉県AI救急相談
- 参照:埼玉県の事例では1日100件の相談
- 埼玉の同様事例との人口比より算出(東京都は埼玉県の2倍の人口)
- 対応時間削減:10万件 × 平均5分 = 8,300時間の人手削減
- 不必要な救急車・外来の削減:軽症受診の抑制で医療費年間5億円節減
- 救急車1件あたりに必要な税金は4.5万円
- 年5,000件の出動が減ると少なめに仮定しても、2〜3億円節減
- 参照:埼玉県の事例では相談件数の80%が救急車不要 - 医療費の削減や人件費削減の効果も踏まえると、さらに医療費は削減できる
- 救急車1件あたりに必要な税金は4.5万円
- +α 市民の自己判断ミスによる手遅れを低減
コスト
- 初期費用:2,000〜3,000万円(AI開発、UI構築、LINE連携等)
- 開発費は以下のように1,800万円ほど。データ整備や人件費などを含めても2,000万円〜3,000万円程度か
- 年間運用費:1,000〜2,000万円(クラウド費、データベース更新、検証費用等)
想定されるリスクとその対処方法
リスク | 対処方法 |
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誤案内(誤った医療判断) | 医師監修のQA+高リスク時は人間に自動転送 |
プライバシーリスク | 匿名相談+SSL暗号化+情報保存期間の明確化 厳格なアクセス管理と堅牢なセキュリティ対策 |
緊急時対応遅れ | 高リスク文言入力時は即119案内、ショートカット実装 |
サービス過負荷 | スケーラブル構成、アクセス集中時の簡易モード提供 |
信頼性の担保 | 都公式発信、監修体制の開示、FAQの改善プロセスを公開 |
事例(国内・海外)
- 国内:埼玉県AI救急相談、神戸市LINE健康相談チャット、三田市24h自動応答
- 参照:埼玉県AI救急相談
- 海外:NHS 111(UK)、Babylon(US/UK)、K Health(IL)など
- 参照:NHSの事例