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東京都のDXのためにチャットボットを活用して重点的に投資すべきAI分野(v0.5)

提案要旨

東京都における生成AI技術の戦略的活用として、都民サービスの質の向上と行政業務の効率化を両立させるAIチャットボット活用の施策を提示する。技術発展に伴い、AIチャットボットのできることや精度は上昇中で、実際に海外の自治体や行政でも事例が多く出てきている。中でも「全庁横断型窓口」と「観光案内分野」の窓口の2点は特に投資対効果が良く、合計で30,000時間〜50,000時間程度の職員業務の圧縮効果が期待される。

  1. 施策1:全部局横断型AI問い合わせ総合窓口の導入
    都庁全体の問い合わせ業務を統合し、生成AIを活用した24時間対応の総合窓口を構築。音声・多言語・マルチモーダル対応も視野に入れる。

  2. 施策2:観光案内分野での生成AIチャットボット導入
    訪日非日本語話者や都内観光客向けに、パーソナライズされた観光提案を可能とするAIガイドを各所に展開。地域経済活性化とホスピタリティ向上を目指す。

これらの施策は、都民接点の効率化により、数万時間単位での職員業務の圧縮効果が期待される。加えて、蓄積された対話ログの分析による政策立案の高度化という波及効果も見込まれる。

上記の2つの施策が選定された理由

以下の2つの「東京都AI戦略いどばた会議」議事録を参照。 東京都での生成AI技術の活用策として、可能そうな施策を10個挙げた上で、議論をしてもらった。その上で、肯定的な意見が多く集まり、実現可能性が高いとのコンセンサスが取れた2つの施策をピックアップした。

https://large-scale-conversation-sandbox.discourse.group/t/topic/76/28

https://large-scale-conversation-sandbox.discourse.group/t/topic/299/12


施策1:全部局横断型AI問い合わせ総合窓口の導入

何をするかの概要

都庁内の各局・各部門がそれぞれ保有するFAQや問い合わせ対応情報を統合し、都民・法人・非日本語話者がいつでも気軽に利用可能なAI総合窓口を設置する。

何をするか具体的に

  • 都庁HPやFAQデータをベクトル化し、RAG構成により根拠付きで回答生成
  • チャット・音声・LINE等のUIで24時間対応可能にする
  • 多言語対応、自動翻訳機能により非日本語話者も利用可能
  • 音声対応により高齢者・障害者にも対応
  • 問い合わせは録音・蓄積し、ログを分析して政策立案に活用(都民の関心領域・課題の可視化)&FAQ更新負担を軽減
  • AIで難しい案件はAIだけで完結させず、人間オペレーターに引き継ぐ体制を整備
  • 親和性の高いキャラクター設計による対話・共感をするというアイデアもあり

その提案が良い理由

  • 年間10万件超の問い合わせのうち最大50%(=5万件)を自動化でき、職員対応約5,000時間の削減効果(1件5分換算)
  • 都民が局の縦割り構造を意識せず相談可能になる(総合行政相談への進化)
  • 情報格差・言語バリアを解消するインクルーシブな行政窓口
  • ログデータから都民の関心・ニーズを可視化し、施策立案に反映
  • 市民がAI総合窓口に気軽に相談できることで、行政施策に対する理解促進につながりうる 近年のAI技術(特にRAG構成)は、数千ページ規模の専門文書からでも関連情報を探し出し、高い精度で回答を生成する能力が示されており、職員の調査時間を削減する効果が期待できます。

既存のAIチャットボット窓口との違い

Web上で個別のFAQやチャットボットをつなぐ既存の"総合案内"とは違い、行政窓口それ自体を代替し、東京都全体の行政コミュニケーション基盤を再構築する構想である点が大きく異なる。

観点 チャットボット総合案内(既存) 全部局横断AI窓口(提案)
回答方式 各局のFAQや個別Botにリンク誘導 単一AIが横断的に回答(RAG)
データ統合 なし(局ごと) FAQ・HP情報を統合・ベクトル化
対応UI Webベース(PC中心) チャット・音声・LINEなど多様
言語対応 日本語中心 多言語+自動翻訳
政策活用 特になし ログ分析→関心の可視化・政策反映
エスカレーション なし 人(都の担当職員)との連携体制あり
キャラクター性 なし 対話に親しみや共感を持たせる可能性
  • 構造面の違い:これまでの東京都の取り組みは、各局や各事業が独立してチャットボットを導入。全庁横断型

インパクト

  • 削減時間:8.4万件×5分=42万分=7,000時間
  • 年間人件費換算:約1,400万円程度(時給2,000円想定)
  • +α:ログデータから都民の関心・ニーズを可視化できることによる政策立案コスト削減
  • 算出根拠

コスト

  • 初期費用:3,000万円(RAG構成、マルチモーダルUI構築含む開発費)
  • 年間運用費:1,000万円(サーバー/ベンダー保守/API利用料/メンテナンス)
  • 試算根拠:生成AI×RAG型チャットボット(都庁規模)の導入相場、および先行自治体事例より

想定されるリスクとその対処方法

リスク 対処方法
誤答(ハルシネーション) 制度が向上し続けている最新LLMの使用。RAG構成により公式情報の引用ベースで生成。根拠提示の徹底。都庁HPの深層階層まで読み取り可能にすることで、FAQ更新負担を軽減。
多言語誤訳 自動翻訳+言語別テンプレート整備、専門監修
情報更新の遅れ 自動クロール・職員による定期チェック体制
高齢者のデジタル対応困難 既存の窓口を無くすわけではない
プライバシー懸念 個人情報入力を制限、ログ保存期間を短く設定
API利用制限・コスト増大 利用状況を監視し、適切なAPIプランを選択。必要に応じて利用者ごとの制限も検討しつつ、十分な予算を確保。
複雑な判断への対応限界 AIでの対応が難しい問い合わせは、スムーズに人間の担当者へ引き継ぐ連携体制を構築。
継続的なデータ整備の必要性 AIの精度維持のため、学習させるFAQやマニュアル等のデータを常に最新かつ適切な形式に保つ運用体制を構築。

事例(海外・国内)


施策2:観光案内分野での生成AIチャットボット導入

何をするかの概要

観光客向けに生成AIチャットボットを開発し、言語・趣味嗜好・現在地に応じたパーソナライズ案内を提供。都営交通・文化施設・地域商業と連携し、回遊性・消費促進を狙う。

何をするか具体的に

  • 観光案内に特化した生成AIチャットボットを開発し、観光客はスマホからアクセス可能に。各所の観光案内所にデジタルサイネージを設置
  • 観光DB(イベント・グルメ・交通など)を東京都の観光AIに接続
  • 多言語に対応
  • ユーザーの趣味嗜好・現在地に応じたルート・店舗案内
  • 都営交通や文化施設等の連携で乗換・施設案内も統合

その提案が良い理由

  • 非日本語話者の観光客への多言語対応、24時間サービスで観光満足度を向上
  • 観光案内業務を人手からAIに移管し、観光案内所の業務負担を軽減
  • 多様な観光ニーズに応じたパーソナライズ案内で滞在時間・消費額が増加し、地域経済活性化
  • リアルタイム情報による利便性の向上
  • 都が保有する公式情報・文化施設データを活用すれば汎用AIとの差別化が可能

なぜ観光案内分野なのか

観光案内分野は、生成AI導入において「実現性」「即効性」「波及効果」「リスク管理」の各側面でバランスが極めて良好。国際競争力の強化や行政の効率化という観点からも、東京都における最優先の導入領域として位置づけるべき。 - 水道・警察・福祉などは対応の個別性が高く、文脈理解や個人情報保護の観点から全自動化は難しい。一方で、観光分野は誤情報によるリスクが低く、迅速な投資回収ができる - 観光窓口の主な利用者である、"一見さん"は地域知識が乏しいため、情報提供のニーズが特に高い分野 - 「アクセス方法」「営業時間」「イベント情報」など、観光情報は定型化されており、構造化された応答が可能 - 滞在時間や消費単価の増加が期待され、地域経済への直接的な波及効果が見込める

インパクト

  • 削減時間:39,000時間
  • 年間人件費換算:約6,000万円程度(時給1,500円想定)
  • +α:約3.9億円の経済効果
  • 算出根拠
    • 都内観光客数:約5億人/年(国内外合計、うち非日本語話者2,000万人、東京都統計より)
    • 観光案内窓口の想定利用数:非日本語話者15%=300万人、日本人1%=480万人
    • 案内業務のAI代替率:10%と仮定 → 約78万人対応自動化
    • 1対応=3分換算で2,340,000分=39,000時間
    • また、AIによる満足度向上で利用者1人当たり500円の消費増加と仮定すると、 78万人×500円=約3.9億円の経済効果

コスト

  • 初期費用:3,000万円(AIガイド×複数端末、UI構築)
  • 年間運用費:1,000万円(クラウド利用料、情報更新、翻訳監修など)
  • 試算根拠:渋谷アバター型AIガイド事業+BEBOT導入費用からの推定

想定されるリスクとその対処方法

リスク 対処方法
不正確な店舗・イベント案内 最新データ連携による自動更新と担当者チェック
文化・宗教上の誤解 FAQテンプレート整備+言い回しの工夫
多言語精度の低さ 人間監修付き機械翻訳+辞書登録強化
高コスト 多用途端末の共同利用や既存観光拠点の活用で効率化

事例(海外・国内)