東京都として行うべきAI人材育成(v0.5)
背景
AI人材の育成が急務とされる背景には、AI技術の急速な進化と、それに伴う社会や産業の変革があります。特に、生成AIの普及が進む中で、技術者だけでなく、AIを活用できる起業家や非専門職層の人材も求められています。東京都は、AI関連企業やスタートアップが集積するハブとして、優れた人材を育成し、産業競争力を強化する必要があります。しかし、現在のAI教育の現場では、リソース不足や教育機関間の連携不足が課題となっており、産学連携や実務経験の機会を増やすことが重要です。また、スタートアップが直面する資金調達の難しさや、AI分野への進学を希望する学生層の支援が十分ではありません。このような状況を踏まえ、AI人材育成に向けた多角的な施策が不可欠となっています。 本提言の作成にあたり、AIチャット、掲示板、X、YouTube等を通じて有識者の意見を収集し、AI人材の育成を強化するために効果的だと考えられる施策案を検討しました。
提案要旨
AI人材の育成を強化するためには、東京都が中心となり、産学官連携を一層強化し、多様な支援の仕組みを構築することが必要です。そのためには以下の打ち手が有効であると考えられます。①AIスタートアップへの資金提供を行い、創業初期のリスクを軽減し、大学発ベンチャーや社会課題解決型の事業創出を促進すること。②AI分野への進学を後押しするため、返還不要の奨学金プログラムを創設し、文系や非AI専攻からも含めた人材参入を促進すること。③AIスタートアップの成長支援を強化するため、オフィス賃料免除や技術活用の実証実験支援など、包括的な支援パッケージを提供すること。④都立大学におけけるAIカリキュラムを拡充し、社会人や他大学生が学びやすい環境を整備することで、広範なAIリテラシーを促進すること。⑤インターンシップ支援事業を拡充し、実践的な体験機会を提供することで、若者や社会人のAI人材としての実務能力を高め、産業界との連携を深めること。
施策案
施策1:ファンドによるスタートアップへの資金提供
施策の詳細
東京都が主導して、AIスタートアップを対象とした専用ファンドを創設します。対象は、大学発ベンチャー、生成AIを活用した事業、社会課題解決型の技術起業などです。直接出資や民間VCとの協調投資、アクセラレーター連携を通じて、創業初期の資金面と成長支援を担保します。
メリット
- 初期段階の高リスクなAIスタートアップにも資金が行き渡ります。
- 公的資金が呼び水となり、民間投資の活性化が見込まれます。
- 資金難で起業に踏み切れなかった大学研究者や学生が挑戦しやすくなります。
- 政策目標(AI利活用、社会課題解決)と投資成果の両立が図れます。
想定されるコストと成果
本施策を実施するにあたっては、初期段階での都による一定規模の資金投入が必要となる。たとえば、東京都が年間10億円規模の専用ファンドを設け、毎年20〜30件程度のAIスタートアップに対して、1社あたり最大3,000〜5,000万円の出資・協調投資・助成支援を実施した場合、次のような成果が想定される。 - 年間20〜30社のAIスタートアップ創出・成長支援 - うち3年以内に30〜50%(6〜15社)が事業継続・売上成長を達成 - 各スタートアップが平均3〜5名の雇用を創出した場合、年間で60〜150名の新規雇用 - 社会課題解決型プロダクトの創出(例:福祉支援AI、医療データ処理、自動化ソリューションなど)
将来的には以下のような指標を設定し、施策の中長期的効果を可視化・評価する。 - 民間資金呼び込み倍率(例:都の投資1に対して、民間投資2以上を目指す) - 5年後までに累計支援企業数:100社以上 - 累計資金調達額1億円以上のスタートアップ:20社程度 - 関連産業・自治体との連携件数:年30件以上 - 支援企業による生成AI等の先端技術の社会実装事例数
本施策は、既存の民間VCによる資金提供が届きにくい「大学発」「社会課題解決型」「生成AI活用」などの領域において、創業期からの成長を後押しする政策的意義を持つ。また、他の施策(インターンシップ支援、AI教育強化等)と組み合わせることで、東京都発のAIスタートアップ・エコシステムの形成につながる。
課題・リスク
- 課題: 投資判断の質や透明性確保(審査基準や体制の整備)が必要です。
- 対処法: 外部専門家を含む独立した審査委員会を設置し、明確な評価基準とその結果を公開します。
- 課題: 中長期的な成果の可視化が難しく、即効性に欠けます。
- 対処法: 短期的な指標に加え、雇用創出やイノベーション件数など中長期のインパクト指標を設定し、定期的に評価・公表します。
- 課題: 投資対象の偏り(著名大学や特定分野への集中)のリスクがあります。
- 対処法: 多様な分野や事業ステージのスタートアップを対象とする方針を明確にし、公募プロセスを透明化します。
- 課題: ファンド運用に必要な専門性・ノウハウを行政単独で持ちにくいです。
- 対処法: 民間のベンチャーキャピタルとの連携を強化し、専門的な知見を持つ人材の登用や外部委託を進めます。
挙げられた意見
大学発スタートアップ創出支援や教育への介入の意義に疑問が残る。需要が大きい産業は自然に成長し、需要が大きい学習内容は自然と学ばれるのではないだろうか。
大学発スタートアップ数に関して、短期・中期・長期でそれぞれ具体的な目標数値を設定し、それに応じた補助金を毎年予算に組み込むべきである。
今後エンジニア自体がAIに置き換えられていくことを考えると、「AIエンジニアや情報系人材」よりは「AIも使いつつ事業を起こす起業家」の人数の方がボトルネックになるのでは。
海外事例
🇺🇸 アメリカ:ルイジアナ州「Louisiana Growth Fund」
- 2024年、州経済開発局(Louisiana Economic Development)にて「Louisiana Innovation(LA.IO)」を創設。
- 同年、5,000万ドル(約75億円)規模の「Louisiana Growth Fund」を立ち上げ、AIスタートアップ等への出資を開始。
- 投資は初期段階の企業を対象とし、研究所への支援とは切り離して運用。
- 参考URL:
https://www.opportunitylouisiana.gov/news/state-of-louisiana-launches-innovation-brand-announces-creation-of-50-million-growth-fund-and-artificial-intelligence-research-institute
🇬🇧 イギリス:Innovate UK「BridgeAI」
- 政府系機関Innovate UKが実施するAIスタートアップ支援プログラム。
- 「BridgeAI」では、産業横断でAI技術の社会実装を促進するため、助成金やマッチング支援を提供。
- スタートアップの事業化支援に特化し、教育・研究支援とは明確に区分。
- 参考URL:
https://iuk-business-connect.org.uk/programme/bridgeai/
🇨🇳 中国:深圳市「AI先進都市戦略」
- 深圳市は、2023年からAIスタートアップ支援に年5億元(約100億円)以上を投入。
- 支援内容には、オフィス賃料の免除、R&D補助、生活支援、データ提供、知財支援等が含まれる。
- 地方自治体主導で、創業段階から成長期までを対象にパッケージ型支援を実施。
- 参考URL:
https://www.yicaiglobal.com/news/shenzhen-to-fund-local-firms-to-promote-ai-industry-development/#:~:text=artificial%20intelligence%20sector
施策2:大学での研究における奨学金プログラム
施策の詳細
東京都が、AI分野における研究活動を志す大学生・大学院生に対して、返還不要の奨学金プログラムを創設します。対象は理工系だけでなく、文系・社会科学系など非AI分野からAI分野に進もうとする学生も含め、分野横断的に支援します。研究活動に専念できる環境を整えることで、大学発スタートアップ創出や実用的な研究開発の土壌を強化します。
メリット
- 経済的な理由で研究を断念することを防ぎ、研究継続を後押しできます。
- 文系・非AI専攻出身者のAI分野への「越境」参入が促進され、多様な人材層が形成されます。
- 優秀な学生を都内大学に呼び込む誘因となります(大学間競争力向上)。
- 若手研究者層の厚みを形成することが、将来のスタートアップ創出や産業振興に直結します。
想定されるコストと成果
本施策では、東京都が返還不要の奨学金を通じてAI分野への人材流入を促進する。たとえば、年間500名の学部生・大学院生に対して、1人あたり年間100万円の奨学金を支給した場合、必要な予算は年間5億円となる。これにより、以下のような成果が想定される。
- 年間500名のAI研究志望学生への経済的支援
- 支援者の30〜40%(150〜200名)が大学発スタートアップへの関与、あるいはAI活用企業への就職へと進む
- 支援対象のうち、非情報系出身者の割合を30%以上とし、分野横断的な人材層を形成
- 都内大学におけるAI関連専攻・研究室への進学希望者数の増加(前年比10〜20%程度)
中長期的には、以下のKPIを通じて施策の成果を評価する。
- 支援学生のうち、卒業後に都内企業・研究機関に就業する割合:60%以上
- 研究成果のうち、社会実装または特許出願に至った案件数:年間10件以上
- 文系・社会科学系からのAI研究参入者数:年間200名以上
- 都内大学におけるAI分野専攻学生数:5年で1.5倍以上を目標
加えて、本奨学金制度は、研究費のみに偏らず、学際的・社会実装志向の研究活動や越境的キャリア形成を後押しする制度設計とすることで、多様なAI人材の育成と地域への定着促進を図る。
課題・リスク
- 課題: 大学の定員や指導体制が変わらない限り、奨学金による受け入れ数の上限があります。
- 対処法: 東京都として、AI分野における大学定員の段階的な増加について、国(文部科学省)に対して継続的に協議・働きかけを行います。
- 課題: 成績・研究内容・背景など選考基準の設計と透明性確保が求められます。
- 対処法: 学業成績に加えて、研究計画の独創性、社会実装への意欲、分野横断的な視点なども評価基準とし、選考プロセスや結果を公開します。
- 課題: 支援を受けた人材が都外や海外に流出するリスクがあります(地域内還元の仕組みが必要です)。
- 対処法: 都内での就業や研究継続を奨励するインセンティブ(例:都内企業への就職支援強化)、卒業生ネットワークの構築、都内企業とのマッチング支援を行います。
- 課題: 他分野(人文学・基礎科学等)からの反発や、研究費配分の不公平感が生じる可能性があります。
- 対処法: AIと他分野の融合研究も支援対象とし、財源を既存研究費からではなく新規確保することを明確化し、他分野への配慮を示します。
挙げられた意見
奨学金プログラムは大学の定員が増やせない以上、まだ意味がなさそう(大学の定員を増やす交渉を文科省とした方がよさそう)
予算に関わるプランの場合、既存の研究費からAI分野への予算を増やすのではなく、他の資金源からAI分野へと予算を再配分していただきたいです。現状、研究界全体の予算が非常に限られているため、これ以上削減されると学術研究全体に悪影響を及ぼす恐れがあります。(itoma_aikon)
日本学術会議が発表した提言(p.15参照)では、多様な学術研究への支援が将来的な技術革新にとって重要であると述べられています。この視点は、AI分野に特化するだけでなく、大学全体の研究環境を整備することが、結果的にAI人材の育成やスタートアップ創出にも寄与するのではないかと考えさせられます。(itoma_aikon)
最新のAIだと多額の負担がかかるので、予算に余裕のない研究室だと高費用のAIを使うなら、逆に学費を払ってくれる大学院生を使ったほうがいいという判断になる(itoma_aikon)
海外事例
🇬🇧 イギリス:AI・データサイエンス大学院コンバージョンコース奨学金制度
- イギリス政府は、AI・データサイエンス分野への人材流入を促進するため、非AI専攻出身者を対象とした大学院コンバージョンコースの奨学金制度を導入。
- 2023年時点で最大£17百万(約34億円)を拠出し、1人あたり£10,000(約200万円)の返済不要奨学金を提供。
- 対象者は、女性・黒人・障がい者・低所得層出身者など。多様性向上と非情報系人材の育成が狙い。
- 教育機関と産業界が共同でカリキュラムを設計し、即戦力となる人材の育成を実施。
- 参考URL:
https://www.gov.uk/government/news/23-million-to-boost-skills-and-diversity-in-ai-jobs
https://www.officeforstudents.org.uk/publications/ai-and-data-science-postgraduate-conversion-course-scholarship-funding/
🇺🇸 アメリカ:NSF(全米科学財団)によるAI研究フェローシップ制度
- NSFは全米AI研究所と連携し、修士・博士課程の学生向けにフェローシップ制度を整備。
- 学生はAI研究所の研究プロジェクトに参加し、産業界との共同研究や教育プログラムを通じて実践力を獲得。
- 州立大学を中心に、研究・教育・就職を結びつける一体型育成プログラムとして機能。
- 参考URL:
https://new.nsf.gov/funding/initiatives/ai
https://beta.nsf.gov/news/nsf-invests-140m-seven-new-national-artificial
🇨🇳 中国:深圳大学の国際学生向けAI関連奨学金制度
- 深圳大学は、AI・データサイエンス等の重点分野で国際学生向けの学部・大学院奨学金を支給。
- 成績優秀者には最大RMB 15,000(約30万円)の給付あり。返還不要。
- 国際的人材の呼び込みと中国国内のAI研究の国際化を同時に推進。
- 参考URL:
https://lxs.szu.edu.cn/en/info/1003/2662.htm
施策3:AIスタートアップへの支援(オフィス賃料免除、コンピューターリソース、生活補助提供、特許対応などの実務、広報支援、技術活用フィールドとのマッチングなど)
施策の詳細
東京都が、AIスタートアップの創業・成長を後押しするために、ハード・ソフト両面で包括的な支援パッケージを提供します。具体的には、スタートアップのオフィス賃料の免除、クラウド等の計算リソースの無償提供、生活補助金、特許申請・知財戦略支援、広報支援、実証実験の場(自治体や大学・企業とのマッチング)などが含まれます。
関連施策との関係
NEXs Tokyo や Tokyo Innovation Base(TiB)といった既存のスタートアップ支援施策は、起業支援の場として重要な役割を果たしています。特にNEXs Tokyo はスタートアップのネットワーキングとピッチ機会の創出、TiBはイノベーター向けの交流・実験の場の提供に寄与しています。 一方で、これらはAIスタートアップに特化した制度設計ではなく、また技術的支援・知財戦略・行政との実証連携といった「深い支援」までを包含しているとは言い難い側面があります。 本施策では、AIスタートアップに対して特化的・包括的に支援を行うとともに、自治体との連携による社会実装支援や、実務面での伴走支援を加えることで、既存施策を補完・拡張する位置づけとなります。
メリット
- 初期固定費(賃料・リソース)の軽減により、若手起業家や学生の挑戦を後押しできます。
- AIスタートアップの生存率・成長率を高め、地域経済や雇用創出に寄与します。
- 地域フィールドでの実証実験支援を通じて、技術実装力や信頼性の向上が見込まれます。
- スタートアップを「点」でなく「面」として育てるエコシステム形成が可能になります。
想定されるコストと成果
本施策では、AIスタートアップの創業・成長を支援するため、東京都がオフィス賃料やクラウドリソース、専門支援人材等の実務支援を提供する。たとえば、以下のような年間予算で施策を構成する場合、現実的かつ意義ある支援が可能となる。
- 支援対象:年間50社程度のAIスタートアップ
- オフィス賃料補助:1社あたり最大年300万円 × 50社 = 1.5億円
- クラウド・コンピューティング支援(AWS/Azure等):1社あたり年100万円相当 × 50社 = 5,000万円
- 生活・事業支援金、法務・知財等専門家伴走支援:1社あたり年100万円相当 × 50社 = 5,000万円
- 実証実験・マッチング支援体制整備(自治体・大学との連携事業費含む):約1億円
- 合計想定コスト:年間 約3.5億〜4億円
これにより、以下のような成果が期待される。
- 年間50社のAIスタートアップが、初期固定費を抑えて活動可能に
- 支援企業のうち30社以上が都内でのPoC・実証実験を実施
- 企業1社あたり平均3〜7名の雇用を創出し、全体で150〜350名の新規雇用に寄与
- 特許出願・取得支援により、年間50件以上の知財創出を後押し
- 1年以内に民間投資を獲得する企業の割合:40%以上を目標
さらに、本施策により、既存のNEXs TokyoやTiBなどと連携した支援エコシステムをAI領域に特化して拡張でき、起業家が孤立せずに成長できる都市型支援モデルの構築につながる。民間VC等との協調による資金循環の仕組みづくりや、スタートアップと行政現場との実証連携強化によって、社会実装フェーズへの移行を支援する。
課題・リスク
- 課題: 対象の選定方法や期間設計(どこまで・いつまで支援するか)の設計が難しいです。
- 対処法: 明確な選定基準(技術革新性、市場性、社会課題解決への貢献度など)を設定し、外部専門家を含む委員会で審査します。支援期間は段階的に設定し(例:初期1年、成果に応じて最大3年まで延長)、定期的な進捗評価に基づき継続を判断します。
- 課題: 公平性・透明性の確保(支援対象への偏り、既得権化リスク)が必要です。
- 対処法: 公募情報を広く周知し、選考プロセスと結果を可能な範囲で公開します。多様なステージ・分野のスタートアップを支援する方針を明確化し、偏りを是正します。
- 課題: 過剰支援による「補助金依存型スタートアップ」の発生リスクがあります。
- 対処法: 支援は自立促進を目的とし、直接的な資金援助だけでなく、民間VC連携やメンターシップを強化します。マイルストーン達成に応じた支援とし、自走化計画の策定を要件に含めます。
- 課題: 実務支援(知財・広報・マッチング等)には高度な専門人材と運営体制が必要です。
- 対処法: 外部の専門家(弁理士、マーケター等)を積極的に登用します。既存支援機関や民間アクセラレーターとの連携強化、専門機能の外部委託も活用します。
挙げられた意見
スタートアップをやっていた身としてはこういうのは非常に助かります。まず居場所が欲しい。コンピューターリソースも提供してもらえると嬉しいですね。大企業の無料支援枠みたいなものにも数年間お世話になっていました。法務関係もあるといいです。特に特許は国内だけではなく同時に海外も抑えようとすると初手で数百万かかるし、維持もある。(masato.ohta.1987)
ほとんどの非AIスタートアップにとって、AIの本格導入はハードルが高い。(AIエンジニアの採用が難しい。人材見極め困難・雇うための予算をつけられない、等の理由。)大学等の研究機関でAIを研究する学生/研究者と、スタートアップとを繋ぎ、AI人材を企業とマッチアップさせることで、実際の事業におけるAI活用と研究成果向上を同時に促進することができると良さそう。(lime)
AIスタートアップが特許・規制対応に苦戦しないために、都が専門家による支援を実施する。例えばセミナーの開催等が一つの手段として考えられる。(NAGAI)
海外事例
🇨🇳 中国:深圳市のAIスタートアップ支援政策
- 深圳市は、AIスタートアップを対象に、最大3年間のオフィス賃料免除、年間最大100万元(約2,000万円)のコンピューティングリソース補助、特許取得支援、生活費補助などの包括的な支援策を実施しています。
- これらの支援は、AI人材の誘致と地域定着を目的としており、香港・マカオ出身の若手起業家にも焦点を当てています。
- 参考URL:
- Eyeshenzhen - AI ecosystem taking shape in Nanshan
- Shenzhen showers AI companies, workers with cash to boost local industry
🇺🇸 アメリカ:ニューヨーク市のAIスタートアップ支援
- ニューヨーク市は、AIスタートアップの支援として、オフィススペースの提供、クラウドサービスのクレジット、法務・知財支援、ピッチイベントの開催などを行っています。
- 代表的な支援プログラムとして、Entrepreneurs Roundtable Accelerator(ERA)があり、選定されたスタートアップには、無料のオフィススペース、クラウドサービスのクレジット、法務・会計支援、ネットワーキング機会などが提供されます。
- 参考URL:
- https://www.eranyc.com/
🇬🇧 イギリス:Innovate UKのBridgeAIプログラム
- イギリス政府のInnovate UKは、BridgeAIプログラムを通じて、AIスタートアップに対する資金提供、専門家とのマッチング、知財支援、実証実験の場の提供などを行っています。
- このプログラムは、建設、輸送、農業、創造産業などの分野でAIの導入を促進し、スタートアップの成長を支援しています。
- 参考URL:
- BridgeAI - Innovate UK Business Connect
施策4:都立大学でのAI系の学習・研究の支援(カリキュラム変更やオンラインで無料開放など)
施策の詳細
都立大学を中心に、AI・データサイエンスに関するカリキュラムを拡充し、基礎から応用までを幅広く学べる教育環境を整備します。学内だけでなく、都民・他大学生・社会人に向けてオンラインでの無料公開も推進します。加えて、生成AIの活用やPythonなどの実践的技術科目の導入も含みます。
関連施策との関係
東京大学が主催する「AI経営講座(AI Business Insights 2025)」は、高校生・大学生を対象に、AIと経営の関係性を学ぶ機会を無償で提供しており、先進的な教育プログラムとして高い評価を得ています。 しかし同講座は対象が限定的であり(主に高校生・大学生)、また大学の通常カリキュラムとは別建ての特別講義という性質を持ちます。そのため、社会人や他大学の学生を含めたリスキリングや、正規の単位取得型教育、都立大学を中心とした公的リソースの体系的活用といった側面では、制度的な拡張の余地があります。 本施策では、都立大学の機能を活かしつつ、より広範な学習者へのアクセスと、教育の公共性を強化することで、既存施策を下支えし、対象・機能の両面で拡張することを目指します。
メリット
- 公立大学による教育のオープン化により、AIリテラシーの底上げが可能です。
- 社会人や非情報系学生も学びやすい環境となり、リスキリングに貢献します。
- 文理を問わないAI基礎教育により、多分野融合型の人材を育成します。
- 他地域との差別化要素となり、都内大学の魅力強化にもつながります。
想定されるコストと成果
本施策では、都立大学におけるAI・データサイエンス教育を強化し、社会人や他大学生も学べる形でオープン化を進める。たとえば以下のような規模感で実施する場合、都内全体のAIリテラシー向上に大きく寄与することが期待される。
- AI・データサイエンス新設講義数:年間10〜15科目(講義開発・運営費 約5,000万円)
- オンライン公開講義プラットフォームの開発・維持:初年度 3,000万円、以降 年間1,000万円程度
- 教員・TA(ティーチングアシスタント)増員・報酬:年間3,000万円〜5,000万円規模
- 外部講師・民間連携による実務講義等への謝金:年間1,000万円
- 合計想定コスト:年間 約1億〜1.5億円
この施策によって、以下のような成果が想定される。
- 年間のべ1,000〜2,000名の受講者(学内外・社会人を含む)
- オンライン講座の累計アクセス数:初年度10万ビュー以上、5年以内に100万ビュー超を目標
- 社会人・非情報系学生によるAI・データサイエンス修了証取得者数:年間500名以上
- 都内企業による講座活用・人材スカウト等の事例数:年間20件以上
- 女性・中高年・非デジタル職層からの学習参加率向上(全体の30%以上を目標)
また、都立大学によるオープン教育は、公的教育資源としてのモデルを国内外に提示することとなり、東京都が主導する「AI時代のリスキリング都市」としてのプレゼンス強化にもつながる。将来的には、都立大学のAIカリキュラムを起点としたMOOC(大規模公開オンライン講座)の設計や、企業・自治体との連携プロジェクト型講座の展開などへの拡張も視野に入る。
課題・リスク
- 課題: 教員リソース・教材の開発・運営体制の整備が必要です。
- 対処法: 既存教員の負担軽減策(TA増員、外部講師活用)を講じ、教材開発は専門チーム設置や外部委託を検討します。運営体制は専任部署や学内連携を強化します。
- 課題: オンラインでの学習成果や定着度の可視化・評価が難しいです。
- 対処法: オンラインテスト、課題提出、ピアレビュー、修了証発行などを組み合わせ、学習時間やアクセス状況のデータも活用します。アンケート等で定性評価も行います。
- 課題: 学内外の多様な学習者の習熟度差への対応(カリキュラム設計の難しさ)があります。
- 対処法: コースを基礎・応用などにレベル分けし、補助教材や個別指導(TA活用)を提供します。選択制モジュールの導入も検討します。
- 課題: 都の資金援助や文科省との調整が不可欠な可能性があります。
- 対処法: 東京都として、本施策の実施に必要な予算を継続的に確保します。また、大学設置基準や単位互換制度について国(文科省)と協議・連携します。産業界からの寄付や連携も積極的に模索します。
挙げられた意見
理系におけるAI系の授業の格を自由に取れる授業ではなく、選択必修科目的な立ち位置にする。
ある程度授業で生成AIを作ったり、Pythonの機械学習の基礎を学べるようにして、全体的なレベルの底上げを行う。
東大松尾研のAI教育プログラムのような、文理を問わずAI・データサイエンスの基礎を学べるカリキュラムが導入できれば良いと思う。 東大でAIを学ぼうとすると進学振り分けの壁が立ちはだかる。傍流ルートでも進振りスコア高いところばかり。東工大や一橋ソシャデなど、東京で東大に次ぐレベルのAIについての学びを受けられる大学の存在感を上げていきたい。
海外事例
🇺🇸 アメリカ:NSFの「EducateAI」イニシアチブ
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概要:米国国立科学財団(NSF)は、K-12から大学院、成人教育までを対象としたAI教育プログラム「EducateAI」を2023年12月に開始しました。この取り組みは、教育者が高品質で対象者に適したAI教育体験を全国で提供できるよう支援することを目的としています。
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主な特徴:
- AIリテラシー向上のための教材開発とオンライン公開。
- K-12から成人教育まで幅広い対象者への対応。
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教育者向けの支援とリソース提供。 oai_citation_attribution:0‡University of York
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参考URL:
- NSF公式発表: https://www.nsf.gov/news/nsf-launches-educateai-initiative oai_citation_attribution:1‡NSF - National Science Foundation
🇨🇳 中国:北京市のAI教育義務化政策
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概要:北京市は、2025年9月から小学校から高校までの全生徒に対して、年間最低8時間のAI教育を義務化する政策を導入します。このカリキュラムは、基礎的なAI概念の理解から、実践的なAIの応用、倫理的な問題の探求までを含みます。 oai_citation_attribution:2‡The AI Track
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主な特徴:
- 小学校から高校までの全学年でのAI教育の導入。
- 実践的なAIの応用と倫理的な問題の探求。
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教育段階ごとに適した学習目標の設定。 oai_citation_attribution:3‡Lawyer Monthly
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参考URL:
- The AI Trackの記事: https://theaitrack.com/china-mandates-ai-education/ oai_citation_attribution:4‡The AI Track
🇬🇧 イギリス:オープンユニバーシティのAI入門オンラインコース
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概要:オープンユニバーシティは、AIの歴史的、倫理的、社会的な問題を探求する無料のオンライン短期コース「An Introduction to Artificial Intelligence」を提供しています。このコースは、AI技術の台頭に伴う最新の問題に関心のあるすべての人々を対象としています。 oai_citation_attribution:5‡The Open University
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主な特徴:
- AIの歴史的背景、倫理的考察、社会的影響の理解。
- 多様な視点からのAIに関する議論。
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オンラインでの柔軟な学習環境の提供。
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参考URL:
- オープンユニバーシティ公式コースページ: https://www.open.ac.uk/courses/short-courses/lg003 oai_citation_attribution:6‡open.ac.uk
施策5:インターン・実践体験機会への補助(既存の都事業を拡大)
施策の詳細
東京都が既に実施している「スタートアップへのインターンシップ支援事業」等を拡充し、AIスタートアップや技術系企業における実践的な体験機会を若者・社会人に提供します。報酬の一部または全額を都が補助するほか、マッチング支援、アイデアソン型の体験設計、学生以外の参加枠拡大も検討します。
メリット
- 若者や社会人がリアルな課題解決経験を積むことで、AI人材の実践力向上が期待されます。
- スタートアップ側にとっては、人材確保と事業開発支援が同時に得られます。
- 起業や研究開発への動機づけが強化され、キャリア選択の多様性にもつながります。
- スタートアップとの接点を通じて、学術と実務の橋渡しができます。
想定されるコストと成果
本施策では、東京都が実施する「スタートアップへのインターンシップ支援事業」を拡充し、AIスタートアップ等における実践体験機会を広げる。たとえば以下のような制度設計を想定する。
- インターン支援対象者数:年間500名(学生・社会人含む)
- 1人あたり報酬補助:月額10万円 × 平均2ヶ月 = 20万円 × 500名 = 年間約1億円
- マッチング・運営事務費、企業側への伴走支援:年間5,000万円〜7,000万円
- アイデアソン・公開ワークショップ等の実践型プログラム経費:年間3,000万円
- 合計想定コスト:年間 約1.8億〜2.2億円
これにより、以下のような定量的成果が期待される。
- 年間500名がAIスタートアップ・自治体連携プロジェクト等に参加し、うち約70%が2ヶ月以上の実践経験を取得
- プログラム参加後6ヶ月以内の就職・起業・研究活動への転換率:60〜70%以上を目標
- AI人材未経験者のうち、参加後にキャリアシフトを志す者の割合:30%以上
- 年間50件以上のAI課題解決型プロジェクト(例:都市交通、福祉、防災等)でインターンが関与
- 都内スタートアップ・中小企業側の受入継続希望率:80%以上
また、対象を「学生」から「社会人リスキリング希望者」や「非正規雇用層」にまで広げることで、AI人材育成における社会的包摂の観点からも大きな意義を持つ。長期的には、参加者と企業・自治体との関係継続(アルムナイ制度等)を通じた人的ネットワークの形成と、地域課題を起点としたAI活用の芽出しにも貢献する。
課題・リスク
- 課題: マッチングの質と量の担保(適切な人材・企業の組み合わせ)が難しいです。
- 対処法: 専門のマッチングコーディネーターを配置し、企業と参加希望者のニーズを詳細に把握します。ポータルサイト等で情報公開を促進し、AI活用も検討します。
- 課題: 「学生限定」といった枠組みでは参加の裾野が狭くなってしまいます。
- 対処法: 社会人、リスキリング希望者、非正規雇用者なども対象に含めることを明確化し、広報活動で多様な層にアピールします。
- 課題: 成果(成長や定着)の可視化が困難であり、KPI設計が必要です。
- 対処法: 参加前後のスキル変化、就職・起業状況、満足度などをアンケートやレポートで追跡します。企業側の評価も参考に、明確なKPIを設定し定期的に効果測定を行います。
- 課題: 企業側の受入体制(報酬・指導コスト・業務設計など)の負担軽減も必要です。
- 対処法: 都からの報酬補助に加え、受け入れガイドラインの提供やメンター研修を実施します。優良受け入れ企業へのインセンティブ付与なども検討します。
挙げられた意見
インターン生の定義の拡大もできたらよいと思います。(学生という限定をはずす感じ。)
体験内容の拡大もあるとよいと思います。例えばAIスタートアップ企業が抱える課題のアイデアソンを開催(一部補助)して、老若男女の参加でイノベーションに期待したり。
インターン・実践体験があることで、自分で立ち上げようというモチベーションにもなるかと。
AIも使いつつ事業を起こす起業家・研究者について、どのような方法で育成できるか。実際の企業課題と触れる機会を通じて、非AI分野からの越境・育成にもつながるのではないか。
海外事例
🇨🇦 カナダ:トロント市 × Vector Institute × 地元企業
- 実施主体:トロント市経済開発局 × Vector Institute(AI研究機関)× 地元企業
- 内容:
- トロント市が地域のAI人材育成・就労支援を目的として、Vector Institute と連携し、地元大学生・大学院生を対象にAI関連の実務インターンシップを提供。
- 市内のスタートアップや自治体部局(例:交通・環境・医療分野)と連携した実証プロジェクトにも参加可能。
- 支援内容:
- Vector Instituteのインターンシッププログラムに基づき、最大4〜12ヶ月間のインターン機会を提供(有給)。
- IMPACTメンタープログラムにより、業界経験者からのキャリア支援あり。
- オンサイトまたはリモート形式の柔軟な運用。
- 対象者:オンタリオ州内の大学生・修士・博士課程の学生(AI・データ・応用分野)
- 成果:
- 参加者の多くが修了後にパートナー企業へ就職、または大学院進学へ。
- 社会課題解決型AIプロジェクトへの人材流動を促進。
- 参考URL:
https://vectorinstitute.ai/internships/
🇬🇧 イギリス:グレーターロンドン庁(GLA) – Mayor’s Digital Talent Program
- 実施主体:Greater London Authority(グレーターロンドン庁)/ロンドン市長室
- 内容:
- 若年層やマイノリティのデジタル人材育成と就労機会の拡大を目的に、市主導で実施されるプログラム。
- データサイエンス、AI、クラウド、UX/UI等を含む分野での職業訓練および地元企業へのインターン支援を展開。
- 支援内容:
- ロンドンの中小企業や自治体部局でのAI・テック関連インターンをマッチング。
- 給与補助(London Living Wage準拠)、職業教育カリキュラムの提供、長期就職支援。
- 貧困・マイノリティ層への優先支援設計。
- 対象者:16〜24歳のロンドン居住者(技術経験不問)、社会的弱者の若者を優先
- 成果:
- テック業界での雇用機会の拡大と多様性向上に寄与。
- 企業側も新たな人材パイプラインを得ることに成功。
- 参考URL:
https://www.london.gov.uk/decisions/md2512-digital-talent-programme-programme-extension?ac-116523=116516
補足情報
検討の進め方
- AIチャット、X、youtubeにて幅広く意見を収集しました。
- Discourseを用いて作成した掲示板にて有識者が議論を実施しました。
- githubにて提言を作成し、pullrequestを用いて参加者が提言の修正を提案することで提言をブラッシュアップしました。
- mkdocsで最新版の提言を表示します。
参考URL
- 有識者による議論を行った掲示板:https://large-scale-conversation-sandbox.discourse.group/t/topic/75/50
- AIチャット、掲示板、X、youtubeから収集した意見の取りまとめ:https://delib.takahiroanno.com/projects/67bdc8e71e9569d867825f3b/overall